カラシマという人

ある冬、たまに帰って来る姉がやたらとキスマイBUSAIKU!?の動画を閲覧せよと言っていた。


当時の私は飼い猫と土田晃之にしか興味がなく、飼い猫より可愛い生き物・土田晃之よりカッコいい人間は存在しなかった。

音楽といえばメロスピ、デス声ツーバスあってこそ、レゲエとHIP HOPを囓ってロックDJを志した黒歴史もある。

ロキノンやアイドルを毛嫌いしており、しかし漫画・アニメ・声優は好きだったので、ユーロビートおニャン子系列には詳しいという、どこかの2ちゃんねらーみたいな嗜好だった。


そんな私がジャニーズに興味があるはずもなく、勧められても「あーね」でやり過ごしてきた。

姉は興味ある・なしでなく、“とにかく面白いから観て”と世界のおもしろ珍動画をゴリ推しするスタンスで自身のiPhoneを手渡してきた。

小さな画面の中で、アイドル達はタクシーを停めて何やら恥ずかしいことを言っていた。

Kis-My-Ft2を認識したのはこの時が初めてだったが、興味を持つのはまだ先のことである。



約半年後、親戚からテレビとブルーレイレコーダーを譲り受ける。

それまで我が家には録画をするための機器が無かったため、土田晃之目当てでサッカーW杯関連特番を録画しまくった。

姉もこれに喜び、キスマイBUSAIKU⁉︎の録画をするよう私に命じ、以前より頻繁に帰って来るようになる。

なんだかんだで姉大好き芸人な私は、興味は無いけれど毎週CMカットをしてドヤ顔で姉の帰りを待つようになる。



合コンは負け続き、職場の上司と言い合いになり険悪ムード、気になっていた業者さんには話しかけられないまま配置転換…仕事は好きだったが、つまらない日が続いていた。

(ふつうの恋がしたい、ふつうの人を好きになって心穏やかに過ごしたい)と思うようになっていた。


CMカット作業中のテレビ画面の中で、和風弁当を作った人がいた。

私は板前の修業をしていた時期もあったくらいなので、日本料理が好きだった。

土田晃之が好きなくらいなので、家庭的な男性には非常に弱い。

舌足らずな「ヘルシー和風弁当でぇす」が、心臓を突き抜けて行くのが分かった。


件の姉とは毎年旅行に出かけるのだが、この年は酷かった。

道中でもホテルでもUTAGE!を漁り、ずっと横尾さんの真似をしていた。

すぐ影響を受けるので、奮発して予約したラグジュアリーなスパで浜崎あゆみの「M」のハモりを練習した。


知れば知るほどに横尾さんは奥深かった。

第一印象こそ「主夫になってほしい」だったが、キスマイの母と云われるわりに甘々末っ子属性でパーソナルスペースがやたら狭く、放っておけない。

歌えない・踊れない・喋れない?だったらもっと努力しろ?いやいや、は?努力してないわけないし?むしろ誰にも真似できない横尾渉という職業こそが奇跡では?横尾渉横尾渉として日本国に実在するという覆しようのない事実!横尾渉ってもしかして宇宙的な何かかな??ん?尊いね??

というふうに、恋愛風味の感情をアッサリと打ち消し、“横尾渉ほっとけない芸人”としての横尾担を名乗るようになったのであった。